KARADA内科クリニック渋谷院長の田中です。
日本経済新聞が、2022年10月4日に9種類のヒトパピローマウィルス(以下、H P V)を予防するワクチンを来年4月以降に早い段階で定期接種することを厚生労働省が決めたと報じております。
どういうことなのか、この報道を端的に説明すると
「来春以降、小学校6年から高校1年生相当の方が、自己負担額なしで9種類のヒトパピローマウィルスに対する予防を目的としたワクチンを接種することができる」というものです。
このニュースを確認された方の中には、
など様々な立場の方がいらっしゃり、報道を受けてそれぞれが、「さて、結局自分はどうすれば良いのだろうか?」と悩まれている方がいらっしゃるかと推察しております。
そこで、それぞれの立場の方に向けて、次なるアクションに関してコメントさせていただきます。
あくまでも報道を受けての記述ですので、実際の制度は異なる内容になる、あるいは、定期接種の対象者が制限されるor広がるという事態も起こり得ると思いますが、少しでも皆様のワクチン接種への検討の一助になればと思い、報道を元に話を進めて参ります。
という順で話を進めていきます。
HPVワクチンそのものに関する説明は今回のブログでは割愛し、こちらのページを参考にしてみてください。
東京都福祉保健局が定めております。感染症対策上重要度が高いと考えられる予防接種は、予防接種法に基づき、国民に対し予防接種を受けることが勧められ、行政の費用負担によって予防接種が実施されます。
つまり、感染症の蔓延予防のために自治体が費用負担をして、接種を推奨するワクチンと認識されると良いでしょう。
HPVワクチンは、2013年に日本で定期接種のワクチンだったにも関わらず、積極的な勧奨を一時的に控えられておりました。それが、接種データの蓄積により、安全性や有効性が改めて確認され、2021年11月26日に積極的勧奨が再開となり、2022年4月から個別の勧奨(個別に接種のお知らせを送る取組)が順次行われております。
そして、今回さらに9価HPVワクチンの定期接種に向けた報道が出ました。このような変化のあるワクチンだったために、これだけの規模のニュースとして、皆様に周知されているのかと思います。
いずれにせよ、‘H P Vワクチンは安全である’という根拠が蓄積され、国がさらに予防すべきウィルスの種類を増やし、定期接種のワクチンとしてHPVワクチンの種類をもう一種類追加で認める動きが出ているということをみなさんが改めて認識することできるかと思います。
認知すべき事項の③で記載した通り、途中でワクチンの種類変更は認められておりません。そのために、今2or4価のHPVのワクチンを接種している方は、そのまま予定通り、ワクチン接種を完了することをお勧めします。
医学的には、種類を変えても副反応が起きた報告はありません。さらに、4価から9価のHPVワクチンへ途中変更したことで、9価の抗体を得ることができたという報告もあります。(Hum Vaccin Immunother. 2016;12(1):20-9.)
ただし、途中でワクチンの種類を変更することで、副反応や有害事象が生じた際に、救済措置の対象外となってしまう可能性があります。
したがって、9価ワクチン接種を受けたい方も現在のワクチン接種完了後に実施することをお勧めします。
今回の報道を受けて、9価ワクチンへの関心が湧いた方もいらっしゃるかもしれません。定期接種の対象・対象外を問わず、2or4価→9価ワクチンを接種して、感染予防しうるウィルスの種類を増やすことも有益かと思います。追加の接種計画についてKARADA内科クリニックの感染症専門医に是非ご相談くださいませ。
これから接種を検討される方の中で、「9価HPVワクチンは高額である」などコストを懸念して、接種に対して二の足を踏んでいた方もいらっしゃると思います。この点に関しては、今回の報道を受けて、状況が変わる可能性があります。来春以降の定期接種化によって、一部の方は9価のHPVワクチンが実質自己負担額なしで接種ができることが見込まれているからです。
ただし、医学的に重要なことは、初めての性交渉より前にHPVワクチンを接種しておくことです。したがって、定期接種化を待って、感染予防の機会を失わないように注意が必要です。
性交渉開始の年齢は個人差があるところですが、一般的には、17歳になるまでに接種すると、30歳までに子宮頸がんを発症する確率が88%下がると言われております。一方で、17歳以上での接種の場合は53%にとどまります(N Engl J Med. 2020 Oct 1;383(14):1340-1348.)。
今回の報道では、定期接種化は早くても約半年先の来年の4月以降であり、加えて、ワクチン接種完了するには6ヶ月はかかるため、定期接種化による無料の9価ワクチン接種完了は1年以上先になります。
以上を考慮すると、定期接種によって9価のHPVワクチンの接種を17歳になるまでに完了するには、現在16歳を迎える前の方が対象になるかと思います。おそらく公費の対象者もその年齢になるかと思います。あくまでも、性行為を開始にはまだ時間がかかりそうということが前提になりますが、15才以下の方は少し接種のタイミングを遅らせて、定期接種化を待った上で、自己負担額なしで接種することを計画されてもよろしいかと考えられます。
逆に、認知すべき事項④で記載した通り、16歳以上の方は対象から外れるでしょう。中には、キャッチアップ接種などの助成が出る可能性もありますが、今回の報道でも定期接種化によるワクチン接種の恩恵にはあやかれない可能性が高いと考えます。
コストも重要な観点ですし、その他自身の価値観や状況を合わせて、KARADA内科クリニックの感染症専門医に接種計画のご相談いただければと思います。一緒に接種計画を立てていきましょう。外来では、実際に接種をしなくても、相談することを目的に受診いただくことも可能です。
現在男性の方で、現在4価HPVワクチン(国産)あるいは9価HPVワクチン(輸入)を接種している方もいらっしゃるかと思います。報道を受けて、9価HPVワクチン(国産)に変更し、自己負担額なしに接種できることを期待されている方もいらっしゃるかもしれません。認知すべき事項②にある通り、男性が定期接種の対象になるとは考えにくいです。このままスケジュールを完了されることをお勧めします。
次に、子宮頸がんワクチンを接種していない男性の方についてです。報道にある定期接種化、つまり男性が自己負担額なしで子宮頸癌のワクチンを打つことは難しいと思われます。
もしこの報道を通じて、子宮頸癌ワクチンに興味が湧いた方がいらっしゃれば是非ご相談ください。これまでは、原則男性には9価のH P Vワクチン(輸入)の接種あるいは2価or4価のワクチン接種(国産)を計画しておりました。
ただ、9価のHPVワクチン(輸入)に関しては、現在入荷ができない状態です。輸入代行業者より、「9価HPVワクチンの輸入が厚労省から認められなくなってしまった」と連絡があり、厚生労働省に確認を入れたところ「成分が同じである製品が国内で流通しているため」と言う認識のもと出荷を許可しないことが判明しております。(詳細はこちら)
そのため、今後輸入9価ワクチンの接種は本邦ではできないものと現時点では認識ください。何か副反応が生じた際の救済措置の問題などもありますが、国産の9価のワクチン接種も選択肢になるかと思います。いずれにせよ、ワクチンの種類の選択やその有効性などに関しては、KARADA内科クリニックの外来にて感染症専門医にご相談くださいませ。
9価のHPVワクチンの定期接種化の報道があり、今回記事を書きました。定期接種による恩恵を受けられる方は限られているかもしれません。ただし、感染症専門医としては、子宮頸癌と言う癌の原因になりうるウィルスの予防に貢献するワクチンがこのような報道や制度によって社会に広く知れ渡ることは、喜ばしいことと考えます。
今回の報道をはじめ、皆さんが感染対策の一つとして予防接種に興味が湧き、各種予防接種を通じて皆さんの健康へのお手伝いができればと私たちは願っております。