ポリオとは、ポリオウイルスが原因となる感染症で、急性灰白髄炎または脊髄性小児麻痺とも呼ばれます。病名のとおり小さな子ども(乳幼児)がかかることが多い病気で、弛緩性麻痺と呼ばれる手足がだらんとする麻痺症状を特徴とします。弛緩性麻痺を起こすのはポリオウイルスに感染した人のうち1%以下といわれていますが、麻痺が現れると回復せずに一生残ってしまうことも多いです。乳幼児に比べて少ないものの成人が感染することもあり、成人では重症化しやすく、15~30%の人が死に至るといわれています。
ポリオにはワクチンがあり、ワクチンを接種することでほとんどの人が十分な抗体を得ることができます。日本では2012年以降、不活化ポリオワクチンが定期接種の対象となっています。2023年3月までは生後3か月が公費でのワクチン接種開始時期でしたが、2023年4月からは1か月早まり、生後2か月から接種をすることができます。
ポリオウイルスは自然界から発生するもの(野生株)とポリオ生ワクチンからもたらされるもの(ワクチン由来株)があります。ワクチン由来株はポリオ生ワクチンを経口接種した場合に、接種を受けた人やその周囲の人から検出されることがあります。日本では2012年以降ポリオウイルスを不活化したワクチンを使用しており、不活化ポリオワクチンによってワクチン由来株によるポリオ症状が現れることはないとされています。
ポリオの代表的な症状は弛緩性麻痺と呼ばれる手足がだらんとする麻痺症状です。しかし、感染者の90~95%は症状が現れません(不顕性感染、無症状感染)。残りの約5%に発熱、頭痛、咽頭痛、吐き気、嘔吐などのかぜに似た症状のみが現れ(不全型)、そのうち1~2%が麻痺を伴わない無菌性髄膜炎を発症します(非麻痺型)。感染者の0.1~2%が弛緩性麻痺症状を発症します(麻痺型)。
麻痺型ポリオでは、6~20日程度の潜伏期間の後に表在反射の消失、筋肉痛、筋肉が動かしにくいなどの前駆症状が現れ、1~10日後に手足の左右非対称な弛緩性麻痺が現れます。麻痺は手足に現れることが多いですが、中枢神経が障害されることもあり、呼吸困難に陥って死亡することもあります。また、麻痺が12か月以上に及ぶ場合は、生涯にわたって麻痺が続くことが多いです。
ポリオの診断方法には、便などの検体からウイルスの存在を確かめる方法(ウイルス分離)と血液中の抗体の有無を調べる方法(血清診断)があります。糞便検体を用いたウイルス分離が確定診断に用いられ、補助的に血清診断を行うことが一般的です。
ポリオの根本的な治療はありません。呼吸障害や痰などの分泌物による気道の閉塞へいそくがみられる場合には、気管切開、人工呼吸器などの対症療法が行われます。
ポリオには治療法がないため、ワクチン接種による予防が重要となります。日本では不活化ワクチンによる定期接種が行われており、生後2か月(それまでの生後3か月開始から、2023年4月に変更)~生後12か月の間に3回、3回目の接種から12~18か月後に追加接種として1回の接種を行います。生後2か月以降の乳児にポリオワクチンの接種を開始する場合は、小児がかかりやすいほかの感染症のワクチンと混合した4種混合ワクチン(DPT-IPV)として接種されることが一般的です。これらのワクチン接種を確実に行うことで、99%が十分な抗体を得られるといわれています。
また、ポリオワクチンを接種したことがある場合でも、ポリオが発生している国に長期滞在する場合は渡航前の追加接種が推奨されています。これまでのポリオワクチンの接種によって2023年4月時点で日本ではポリオが発生していない状態が続いています。しかし、海外では依然ポリオが流行している地域があり、これらの地域からポリオウイルスが持ち込まれることによって国内で流行が発生する恐れがあります。これを防ぐためにも確実にワクチン接種を受けるようにしましょう。
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