日本脳炎とは、コガタアカイエカと呼ばれる蚊の1種に刺されることから、“日本脳炎ウイルス”に感染することで発症するウイルス感染症です。感染してもほとんどの人は症状が現れません。しかし、感染者のおよそ100~1,000人に1人の割合で脳炎を発症し、意識障害やけいれんなどをきたします。日本脳炎ウイルスは極東から東南アジア、南アジアに広く分布し、家畜として飼育されるブタなどの体内に生息します。コガタアカイエカは、ブタの血液を吸い、その蚊が人を刺すことで日本脳炎ウイルスがブタから人間に感染します。
一度病気を発症すると致死的になりうる日本脳炎ですが、日本においてはワクチンにより予防が可能です。予防接種の普及や生活環境の変化に伴い、近年は年間10人前後の発症数で推移しています。日本脳炎は決して他人事と考えるのではなく、身近な病気として捉えワクチン接種を行うことが重要といえます。
日本脳炎ウイルスに感染しても多くの場合は症状をきたしません(不顕性感染と言います)。ただし、100~1,000人に1人の割合で脳炎という病気を発症すると考えられています。脳炎を発症する場合、ウイルスに感染後6~16日の潜伏期間を経て症状が現れます。
主な初発症状は、発熱、頭痛、嘔吐などです。その後、意識がわるくなったり、意識変容といって、落ち着かない様子になったり、刺激に対して反応が乏しくなったりします。また、手足の震えや四肢の麻痺が現れることもあります。そのほか、話すことや飲み込むことが難しくなったり、物が二重に見えたりする(複視)こともあります。脳炎発症者のうちおよそ20~40%の方が亡くなるといわれ、また、最大で30~50%ほどの方に何かしらの神経的・精神的で永続的な後遺症が残ると報告されています。
日本脳炎ウイルスに感染すると、体内でウイルスに対する免疫反応として抗体が産生されます。日本脳炎の診断では、初期と回復期に採取した抗体の値を確認し、回復期に上昇していることで診断ができます。また、直接的にウイルスの存在を確認するために、髄液でPCR検査やウイルス分離による検査を行うこともありますが、これは一般の検査会社では困難で、多くの場合は専門機関に依頼することになります。また、ウイルスは特定の部位(視床、基底核など)で主に増殖するため、脳のCTやMRIにて同部位に変化を認めることもあります。
日本脳炎ウイルスに特化した治療方法はないため、対症療法が中心になります。症状に合わせて、治療の提案をさせていただくことになるかと思います。
日本脳炎の経過中は、脳全体が浮腫ふしゅを起こし、けいれん、呼吸障害、血圧低下などをきたします。そのため脳の浮腫を軽減させるために、脳圧降下剤を投与することがあります。けいれんに対しては抗けいれん薬、呼吸障害や血圧低下に対しては人工呼吸管理や昇圧剤などによる治療を行います。
日本では日本脳炎の定期接種が3歳以降に設定されており、ワクチンによって重篤な合併症を予防することが期待できます。ブタの日本脳炎の保有率の高い地域では生後6か月からのワクチン接種が推奨されています。さらに、東南アジアなどへの旅行などで、野外で活動する際には虫除けスプレーを使用する、長袖長ズボンを着用し皮膚の露出を抑えるなど、予防策を講じることも重要です。
日本脳炎はおおよそ1968年以降の生まれの方は日本では定期接種となっております。そのため、日本脳炎の保有率の高い地域への海外赴任などの場合には、1回の追加接種をお勧めしております。
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