- 医学博士
- 日本感染症学会専門医・指導医
- 日本内科学会認定医
- 日本化学療法学会抗菌化学療法認定医・指導医
- 日本感染症学会推薦 ICD(Infection control doctor)
- 日本エイズ学会認定医
- 日本医師会認定産業医
- 臨床研修指導医(厚生労働省)
- 身体障害者福祉法指定医(免疫機能障害)
中性脂肪やコレステロールなどの脂質代謝に異常をきたした状態を指します。
動脈硬化の主要な危険因子であり、放置してしまうと、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患をまねく原因となります。 従来は高脂血症と呼ばれ、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪のいずれかが高いか、HDLコレステロールが低いことがその診断基準とされていましたが、総コレステロールが高い人のなかには、悪玉LDL コレステロールが正常で、善玉のHDLコレステロールのみが高い場合も少なからず含まれていること、そのHDLコレステロールが低い場合を「高脂血症」と呼ぶのは適当でないことなどから、2007年4月に日本動脈硬化学会がガイドラインの改訂を行い、診断名を「高脂血症」から「脂質異常症」に変更しました。
脂質異常の状態になる原因としては、遺伝的な要素、過食、脂肪の多い食生活、運動不足、ストレスなどが関係しています。特に近年、国内で脂質異常症の患者が増えた背景には、食の欧米化が進んで動物性脂肪の多い食事が増えたこと、車の普及などによって慢性的な運動不足の状態にあることなどが関わっているといわれています。
コレステロール値が高くなる原因としては脂肪の多い肉や卵、乳脂肪分の多いバター、チーズ、即席麺などの食べ過ぎが挙げられます。 中性脂肪値が上がる原因となるのは、果物や甘いお菓子の食べ過ぎ、お酒の飲み過ぎなどです。
またタバコを吸うと善玉コレステロール値が低くなり、脂質異常の状態になりやすいことも判明しています。 さらに運動を怠ると体内で消費されるエネルギーが減り、ますます脂質の代謝が悪化してしまいます。大半の脂質異常症は成人以降の食生活、運動不足、体重増加などが原因となって起こるといわれています。
脂質異常症から起こる自覚症状はほぼ皆無で、ほとんどの場合は定期検診などで数値の異常を指摘されて初めて判明します。症状がないということが、この状態を放置して治療介入が遅れてしまう原因につながっているのかもしれません。脂質異常症からの動脈硬化が「沈黙の病気」といわれこともあります。
脂質異常症には他の病気に付随して発症する続発性のものがあります。例えば甲状腺機能低下症、副腎皮質ホルモンの分泌異常、糖尿病、腎臓病、肝臓病などが挙げられます。このような病気に伴って発症する場合には、各病気の症状がきっかけとなって判明するケースもあります。
採血をすることによって診断することができます。具体的には、血液中の中性脂肪値、コレステロール値を測定します。
中性脂肪は食後数時間かけて上昇するため、正確な数値を見るためには午前中に朝食を抜いた状態で採血するのが望ましいです。脂質異常症と判断される基準は、LDLコレステロールが140㎎/dl以上(高LDLコレステロール血症)、HDLコレステロールが40㎎/dl未満(低HDLコレステロール血症)、中性脂肪が150㎎/dl以上(高中性脂肪血症)のいずれかです。
他の病気を併発していることが疑われる場合は、さらに病気に応じた検査が加えられます。また、総コレステロールはあくまでも参考値としての記載にとどめ、診断基準から外されました。
治療は年齢、性別、高血圧や糖尿病の有無、喫煙習慣、家族の既往歴などをもとに目標値を設定して行われます。
まず、どんな人でもHDLコレステロールは40mg/以上、中性脂肪は150mg/dl未満を目指します。
LDLコレステロールは、リスクによって管理目標値が分類されています。狭心症や心筋梗塞と既に診断されていたり治療されている方は、再発予防が重要なので、正常値以下のLDLコレステロール100mg/dl未満がマストの目標です。ですが、「lower is better」と言われ、より下げることがより良いです。
心筋梗塞等はなく、糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化性)のいずれかがある人は、冠動脈疾患死亡高リスク群に分類され、LDLコレステロール120mg/dl未満を目標にします。
高リスクとなる疾患がない人は、性別・年齢・喫煙状況・収縮期血圧から点数化し、冠動脈疾患死亡リスクが2%以上あるならば高リスクと同様、LDLコレステロール120mg/dl未満、リスクが0.5~2%であるならば中リスクとしLDLコレステロール140mg/dl未満、リスクが0.5%未満であるならばLDLコレステロール160mg/dl未満を目標値としていきます。
この辺りは大変細かい分類になりますので、担当医より説明や解説を希望する方は是非ご質問いただければ幸いです。
さて、これらの治療を成功させるために、まずは最も重要なことは食生活の改善です。食習慣を見直すことによってコレステロールの数値の改善を図ります。
2020年厚労労働省より、脂質異常症がある場合には重症化を防ぐためにコレステロール摂取量を1日200mg未満に抑えることが望ましいと発表されました。動物性脂肪の代わりに魚や植物性の油を多く摂ること、コレステロールの吸収を抑える食物繊維を多く摂ること、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の過剰摂取を避けること、アルコールを控えめにすることなどです。
また1日30分以上の有酸素運動を取り入れることも推奨されます。ウォーキング、水泳、サイクリングなどです。食事や生活習慣を変えても数値の改善が見られない場合は、内服薬による治療を行うこともあります。例えば、既に動脈硬化の傾向が見られる人、糖尿病などを併発している人などは早期改善を必要とするため、コレステロールや中性脂肪を低下させる薬が処方されます。
治療薬については、コレステロールだけ高いのか、中性脂肪だけ高いのか、どちらも高いのかで選択が異なってきます。
LDLコレステロールのみ高い場合、治療薬は全部で3種類あります。
まず、LDLコレステロールの低下作用のみあるスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)という薬が第一選択薬です。スタチンは、肝臓でコレステロールを作る酵素を阻害することによってコレステロールを下げます。スタチンの中だと、スタンダートスタチン(プラバスタチン、シンバスタチン)、ストロングスタチン(アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン)の順に作用が強力になります。これらの中から、コレステロールをどれくらい下げたいのかによって選択します。
例えば、ロスバスタチンはコレステロールを下げる作用が最も強いです。ロスバスタチンは、内服して安定してくれば、内服前のコレステロールの40%を下げるとされています。このように、現在の値と目標値によって選択していきます。
次に、小腸でコレステロールの吸収を阻害するエゼチミブというお薬があります。スタチンは肝臓、このエゼチミブは小腸で作用しますので、併用するのが効果的です。そして、コレステロールは胆汁と一緒に排泄され小腸から再吸収されるため、胆汁からの排出を促す陰イオン交換樹脂のコレスチラミンとコレスチミドというお薬も使用します。
LDLコレステロールと中性脂肪のどちらも下げるお薬は、2種類あります。
ニコチン酸系薬とフィブラート系薬です。副作用も少なからずあるので、それらの状況も見ながら使用します。中性脂肪のみ高い場合、EPAやオメガ-3脂肪酸エチルという薬を使用します。EPAは青魚から抽出されるものです。血をさらさらにする作用もあります。中性脂肪が500mg/dlを超えてくる場合には、膵炎のリスクがあるとされていますので、これらのお薬を内服も検討されます。
脂質異常症は自覚症状がないため、定期的に健康診断を受けて自身の数値を把握しておくことが大切です。また日頃から暴飲暴食は避け、適度な運動を継続するなど健康的な生活を心がけましょう。
治療がうまくいかない時 内服薬を変更したり増量したりすることがあります。これはある意味医師の役割になるかと思います。もちろんしっかりと内服していただくのは患者さんの役割になります。
ただし、やはり重要になるのは、患者さんそれぞれに取り組んでいただいている食習慣の改善についてです。担当医が外来日から次の外来受診日までの食事を全て把握し、どの程度それぞれの食事の中でコレステロールを摂取したのかを客観的に把握することは不可能です。そのため、外来では一つの指標としてやはり体重を指標にすることが多いです。
高血圧治療における塩分制限・糖尿病治療における糖質制限・脂質異常症治療におけるコレステロール制限、いずれも食事に対する向き合い方や今までの摂取を少し節制するだけでも体重は1-3ヶ月で結果的には下がってくることが多いです。
逆に低下がなければ、運動あるいは食事の介入を見直す必要があると私たちは考えております。ともに相談しながらこれらの生活習慣病と向き合っていきたいですね。