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公開:2025.03.06 医療情報

ダニ媒介性脳炎ワクチン「タイコバック®」について

ダニ媒介性脳炎(Tick-Borne Encephalitis)は、マダニが媒介するウイルス感染症で、重篤な脳炎を引き起こすことがあります。

これまで日本では予防手段が限られていましたが、2024年3月にファイザー社から新たに「タイコバック®」というワクチンが承認され、予防が可能となりました。

今回は、このワクチンの効果や接種スケジュール、副反応、さらに北海道での感染リスクについて詳しく解説します。

ダニ媒介性脳炎とは?日本国内での感染リスク

ダニ媒介性脳炎に感染すると、発熱や頭痛、筋肉痛などの初期症状が現れ、その後、意識障害やけいれんなどの重篤な神経症状を引き起こすことがあります。極東亜型ウイルスによる感染では、致死率が20%以上と報告されており、回復しても神経学的後遺症が残ることがあります。

ダニ媒介性脳炎は、ウイルスを保有するマダニに刺されることで感染する疾患です。日本では、1993年に北海道で初めて患者が報告されて以来、2024年7月までに合計7例の発生が確認されています。これらの症例はすべて北海道内で発生しており、道南から道北にかけての地域で報告されています。

7例と聞くと少なく感じるかもしれませんが、「診断できた症例」が7例であり、「原因不明」とされている中にかなりの数このダニ媒介性脳炎が含まれていると考えられています。

北海道は自然豊かで、登山やキャンプ、釣りなどのアウトドア活動が盛んな地域ですが、その一方でマダニが多く生息しており、感染リスクがあります。特に春から秋にかけてはマダニの活動が活発になるため、山菜採りや森林散策を行う際には注意が必要です。

しかし、過去の原因不明の中枢神経系疾患患者の血液を調査した報告によれば、2018年に東京都および岡山県で、2019年に大分県で、北海道外で感染した可能性があるダニ媒介性脳炎ウイルス抗体陽性例が報告されています。 ​

また、北海道以外の地域でも、抗ダニ媒介性脳炎ウイルス抗体を保有する動物の存在が確認されており、これらのことから、北海道以外の地域でもTBEの感染リスクが存在する可能性が示唆されています。

海外での感染リスク

ヨーロッパからアジアにかけて30か国以上に分布しており、全世界で毎年約1万人の患者が報告されています。 ​特に以下の地域での感染リスクが高いとされています。​

  • 中央ヨーロッパおよび東ヨーロッパ:
    オーストリア、ドイツ、スロベニア、バルト三国(リトアニア、エストニア、ラトビア)、ロシアなど
  • 北欧
    ​スウェーデン、フィンランドなど
  • アジア
    ロシア極東部、中国北部、日本(特に北海道)など

これらの地域では、マダニが多く生息する森林や草地でのアウトドア活動(ハイキング、キャンプ、狩猟など)を行う際に、ダニ媒介性脳炎ウイルスを保有するマダニに刺されるリスクが高まります。

接種スケジュール・価格等

  • 対象
    • 1歳以上16歳未満
      タイコバック小児用水性懸濁筋注0.25mL
    • 16歳以上
      タイコバック水性懸濁筋注0.5mL
  • 価格
    • 1回 16,500円(税込み)
      ※初回はワクチン診察料3,000円別途
  • スケジュール
    • 初回接種:0.5mLを筋肉内に接種
    • 2回目接種:初回接種の1~3ヶ月後に実施
    • 3回目接種:2回目接種の5~12ヶ月後に実施

この3回の接種で初回免疫が完了し、その後、必要に応じて追加接種を行います。

3回目接種の3年後に追加接種を実施

16~60歳の方は5年ごと、60歳以上の方は3年ごとに追加接種を推奨
なお、免疫を早くつけたい場合には、2回目接種を初回接種の2週間後に行うことも可能です。

有効性に関するエビデンス

タイコバック®の有効性は、国内外の臨床試験およびリアルワールドデータで確認されています。​オーストリアでの研究では、1回目接種の3ヶ月後に2回目接種を受けた場合、ワクチン有効性は100%(95%信頼区間:99.5~100%)と報告されています。​また、ラトビアおよびドイツ南部での研究でも、2回接種後の有効性はそれぞれ98.1%(95%信頼区間:95.4~99.2%)、97.2%(95%信頼区間:94.9~98.4%)と高い効果が示されています。 ​

これらのデータから、タイコバック®は非常に高い効果を持つことが確認されています。

ワクチン接種による副反応と注意点

ワクチン接種に伴う副反応として、注射部位の痛みや腫れ、発赤などの局所症状が報告されています。また、発熱や頭痛、筋肉痛などの全身症状が現れることもあります。これらの副反応の多くは一時的で、数日以内に改善します。

ただし、まれに重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)が起こることもあるため、接種後は体調の変化に注意し、異常を感じた場合は速やかに医療機関に相談してください。
また、接種当日に発熱がある場合や、体調が優れない場合は、接種を見合わせることが推奨されます。接種前に医師と十分に相談し、適切なタイミングで接種を受けるようにしましょう。

KARADA内科クリニックでの接種を希望される方は、事前にお問い合わせいただき、予約を確保したうえで来院されることをおすすめします。

まとめ

ダニ媒介性脳炎は重篤な疾患であり、特に北海道では感染リスクがあるため、注意が必要です。2024年にタイコバック®ワクチンが日本で承認されたことで、国内でも予防が可能となりました。

このワクチンは、3回の接種と定期的な追加接種により、高い予防効果を発揮します。副反応としては注射部位の腫れや痛み、発熱などがあるものの、多くは軽度で一時的なものです。

今後は、北海道などの感染リスクが高い地域での活動を予定している方にとって、ワクチン接種が有力な選択肢となるでしょう。ただし、ワクチンに頼るだけでなく、マダニ対策(長袖・長ズボンの着用、虫除け剤の使用など)も引き続き重要です。

ワクチン接種を希望する方は、KARADA内科クリニックへ!

参考:
厚生労働省 FORTH
ダニ媒介性脳炎を学ぶ(ファイザー)

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KARADA内科クリニック院長。医学博士。日本感染症学会専門医・指導医。 総合診療医として全身の幅広い診療と、感染症専門医としてHIV感染症や結核、マラリアなどの診療に加え、集中治療、院内感染対策、ワクチン診療などに従事。 「東京都感染症マニュアル2018」や「感染症クイック・リファレンス」などの作成に携わる。 東京医科大学病院感染症科医局長や東京医科大学茨城医療センター感染制御部部長、感染症科科長などを歴任し、現職に至る。 ●日本テレビ スッキリに感染症専門家として毎週出演していた他、世界一受けたい授業・ザ!世界仰天ニュースなど出演多数 ●Yahoo!ニュース公式コメンテーター

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