KARADA内科クリニック総院長、感染症専門医・指導医の佐藤です。
インドから帰国され、はしか(麻疹)を発症された方から、はしかの感染拡大が日本国内からみられています。同じ新幹線の車両に乗っていた方に感染が拡がっています。
「同じ車両に乗っていただけで」感染してしまう、これが”はしか”の恐ろしい所です。
コロナで「新幹線は換気ばっちりです」と言われていましたが、はしかのような感染力の強い空気感染するウイルスには不十分ということでしょう。これは新幹線の換気が悪いと言いたいわけではなく、それほどはしかの感染力が強いということです。
はしかは、飛沫感染、接触感染、空気感染の3パターンすべてで感染リスクがあります。特にこの空気感染がもっとも恐ろしく、「同じ新幹線の車両に乗っていただけで」や過去には「同じコンサート会場にいた」、「同じスーパーに行った」、「同じ病院の待合室にいた」だけで感染が拡大します。
普通のマスク(いわゆる不織布マスク)では空気感染は予防できません。
感染症 | 基本再生産数 | 集団免疫率(%) |
はしか(麻疹) | 16-21 | 90-95 |
ムンプス | 11-14 | 85-90 |
風疹 | 7-9 | 80-85 |
水痘 | 8-10 | 90 |
ポリオ | 5-7 | 80-86 |
天然痘 | 5-7 | 80-85 |
百日咳 | 16-21 | 90-95 |
インフルエンザ | 2-3 | 50-67 |
この表を見ていただければわかる通り、はしかは1人の感染者が16~21人にうつしてしまうほどの感染力があり、およそインフルエンザの10倍です。さらに、感染拡大を防ぐには、90-95%の人が免疫を持っておかなければならないとされています。
まず、感染してから大体10日間(5~21日間)の潜伏期(感染はしているものの症状がでない時期)があります。症状の出る2日前から計11日間程度、人へうつす危険性があります。
まず熱や咳、鼻水、のどの痛みなどの風邪のような症状で発症します。2-3日熱が続いた後に、少しよくなったと思った頃に、39℃以上の高熱と発疹が出現します(二峰性)。
発症後7日から10日で多くの方は快方にむかいます。発疹も痕を残さず治ることがほとんどです。
はしかは様々な合併症がみられ、死に至ることもあります。これがはしかの恐ろしいポイントです。合併症として最も多いのは肺炎で、重症化すると人工呼吸器が必要となり入院となることもあり、最悪の場合は死亡してしまいます。もう一つ死亡の原因として多い合併症に脳炎があります。1000人に1人程度ですが、この二つの合併症がはしかで死亡原因のトップ2となっています。
また、10万人に1人と数としては少ないですが、はしかにかかってから約10年後に、知能障害や運動障害が出現し、徐々に進行し、発症から平均6~9ヶ月で死亡に至る亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を発症することもあります。
はしかの予防にはワクチンがとても有効です。1回の接種で約95%の方で抗体が陽転化、つまりワクチンの効果がみられます。よりその効果を確実なものにするため、2回接種が推奨されており、2回目は1回目から1か月後に接種をします。ワクチン接種後2週間程度で抗体ができてきます。
感染歴がない、もしくは、これまで1回もうっていない、もしくは1回しかうっていない人
過去に自分が何回ワクチンを接種しているかの参考になるのが「生まれた年」です。
当院では”はしか(麻疹)”のワクチンを接種頂く事が可能です。
国内でははしかの単独ワクチンが供給不足となっており、当院でもはしかと風疹の混合ワクチンでの接種を行っております。風疹の抗体価がある方が接種を行っても、問題はありません。
以上のように、はしかは感染力が大変強く、その合併症による死亡があることからも大変恐ろしい病気です。唯一といってよい予防法は、ワクチン接種となります。生涯で2回だけ接種しておけばよいワクチンですので、この機会に是非接種をご検討ください。
資料参考:国立感染症研究所感染情報センター 平成20年度感染症危機管理研究会プログラム4資料 「わが国におけるプレパンデミックワクチンの開発の現状と臨床研究」